大事にしたいから置いて来た
それなのに君は笑って、ここにいる…
THUNDERBIRD 02
「同じく、キラ・ヤマトです。」
笑顔で敬礼をしたそいつに俺は固まった…
「ミゲル?」
こくりと首をかしげる、小動物みたいな仕草に俺の怒りは削がれていく。
いつもの事といえばいつもの事に顔が緩んでしまう。
「来ちゃったもんはしょうがない…」
「え、じゃあ…」
不安そうに翳っていた紫水晶の瞳が輝く。
許して貰えたと思ったのだろうけれど、甘いな…!
「…な〜〜んて言うと思ったか!!」
むに〜っと柔らかな頬をひっぱる。
この間の休暇以来触れていないその肌に抱きしめたくなったのを必死に堪える。
「いひゃぃ〜〜」
「おぉ〜よぉく伸びるじゃねーか」
「ミ、ミゲル…もうその辺で…」
涙目のキラを見かねたアスランが止めに入る。
…こいつがもう少し、しっかり止めていれば…キラは戦場に来なくてもよかったんだ。
どうせキラのお願いには勝てなかったんだ…そうに決まっている!(俺だって勝てない)
「黙れ。アスラン。お前もなんで止めないっ!」
「止めたさ!何度も!!一度言い出したら聞かないのはミゲルだってよく知ってる
じゃないか!!」
「はいはい、お二人ともその辺にしたらどうですか?キラさんの頬、真っ赤になって
しまってますよ。綺麗な肌なのに…」
キラの頬を引っ張っていた俺の指を外させて、キラの頬を撫でるニコルは羊の皮を被
った狼に見えた…
「ひどいよ…」
頬をさすりながら涙目で見上げるキラは犯罪並みにかわいかった。
…腹の立つことに、アスランまで見惚れてたし。
それくらい可愛いってことなんだろうけど。
「…お前ら二人食堂で待機!キラは俺と来い」
「ちょっと、なんですか。それは」
「何って、先輩命令?」
「そんな命令聞けるわけないだろう!」
「そうですよ!」
アスランとニコルがぎゃーすかと騒いでいるが俺はそれを無視して、キラの腕を引く。
「え!?ちょ…ミゲル?」
「いいから」
パスワードを打ち込んでドアを開く。自室へとキラを招き入れた。
「…ここって…」
「俺の部屋。適当に座れよ。」
「ミゲルの…」
きょろきょろと部屋を見回して、ぽすんとベッドに腰掛ける。
…そんなスプリングの利いたベッドじゃないはずなんだけど…。
キラが軽いからかもしれない。
あっさりと納得できてしまう自分に苦笑する。
「何か飲む?ってもたいしたものはないけどな。」
「…コーヒー以外にして」
「…相変わらずだな?コーヒー飲めないの」
「そんなにすぐ変わるわけないじゃん…」
「そりゃそうか…じゃ、紅茶でいいか?」
「うん」
キラには甘目のミルクティを渡して、俺はコーヒーを持ちながら
キラと向かい合うようにデスクに備え付けられた椅子に腰掛けた。
「………傍に行きたかったんだ」
カップを両手で包むように持って俯いたキラがポツリと零す。
俺は何も言えずにキラの言葉に耳を傾ける。
「…いってらっしゃいって言ったけど、本当は行ってほしくなんかなかった。
ずっと傍にいて欲しかった。僕を護りたいって言ってくれたけれど僕だってミ
ゲルのこと護りたい…」
俺だって、キラを離したくなかった。だけどその当時キラはまだ14で。
だから安全なプラントに居て欲しかった。その思いは今も変わらないけれど。
でも嬉しいと思っている自分がいることも事実で。
「だから、僕必死で頑張って…」
キラの声が震えてくる。俺が何も言わないから不安になってるのだろうか。
「…俺もキラに会いたかった」
そう言ってキラを抱きしめた。赤の制服ごしに感じる少し高めの体温に安心する。
なんのかんのと言ったところで、俺がキラに会いたかったのは事実だったから。
…そういえば、2年前のあの日もこうやって泣いてるキラを抱きしめた。
自分よりも人を優先させるやつだから、無理にでも本音を言わせないと壊れてしまいそうだった。
そんな繊細でガラスのような心を持っているから。
だから、プラントで待っていて欲しかった。
キラを傷つけるすべての物から護りたかったから。
「…好きだ。キラ…」
願わくは、俺の言葉がキラを護る盾となるように…
君の笑顔が曇らないように、近くで君を護ろう。
…まじめな話になってしまった…
こんなはずじゃあなかったのになぁ…
キスすらしてねぇ!?
なんでだ?